その日入院中の姑を見舞いに行き、下着やタオルを入れている箱を開け「何か悪い物隠してない?ちゃんと下着取り替えた?タオルもっと持ってこようか?」といつものように口うるさく姑とやり合っていると隣のベットのおばさんが「娘さんだよね?」と聞いてきた。
長男の嫁の私、嫁に来ているんだから娘と言えば娘なのかもしれない。
なので、「そうですね…。」とあやふやに答えた。
というより何を聞きたいんだろう、どんな答えを望んでいるのかな?嫁でも娘でもどうでも良いだろうにと思っていたから。
ところが姑が「お嫁さんだよ!長男嫁!」と強く言う、何故?
だから合わせて「そうだよ、長男の嫁だよ!」と教えてあげる。
すると隣のベットのおばさんはとってもびっくりしている、そしていくら嫁だよと言っても信用してくれない。
そこで姑の荷物片づけもそこそこに隣のベットのおばさんと姑と3人で世間話を始めた。
隣のベットのおばさんは病名こそ聞かなかったけれど長く入院しているとの事だった。
そして長く入院していると、暇だし人物観察が始まる。
そこに入院してきたのが姑だったのだ。
初めのうちは珍しいだけだったけど、見れば見る程家族関係が不思議だったようなのだ。
(あの遠慮の無い女の人は誰なんだろう、いや絶対に娘さんだ、娘さんが毎日来てくれてるんだ)
隣のベットのおばさんはそう思っていたようなのだ。
そこでその日思い切って姑にそのことを聞いたらしいのだ。
「あの人娘さんだよね」と。
ところが姑の答えは期待に反して「違うよ」だったのだ。
姑は息子が3人、随分と娘が欲しくて頑張って3人目を産んだのにやっぱり男の子でがっかりだったと言っていた。
だから娘がお見舞いに来ることは絶対に無いのだ。
「どうしてそんなこと聞くの?」
不思議に思って隣のベットのおばさんに聞いてみた。
すると、
「私にもお嫁さんがいるんだ、息子の嫁。そのお嫁さんはねとってもいいお嫁さんだと思ってたんだ。人の悪口を言わない、噂話をしない。本当に良いお嫁さんだと思っていた、入院するまでは。」
入院してそこにお見舞いに来たお嫁さんはこう言ったと言う。
「おかあさんお加減如何ですか?顔色は良いみたいですよ、お大事にしてくださうね。では子供たちが帰って来るのでこれで失礼します。」
ヨソヨソと帰っていったと言うのだ。
何回かお見舞いに来たけどいつもこんな感じ、「お前は保険の勧誘か!」と内心思ってしまったと言うのだ。
お嫁さんに他意は無かったと思う。
何より余計なことを言わず良いお嫁さんじゃないか。
私からすればそう思う。
でも隣のベットのおばさんは違ったのだ。
「お洗濯してきましょうか?」とか「欲しいものがあったら買ってきますよ」とか、もう1歩自分に近づいて来てほしかったのだろう。
入院して気弱になっているから尚更。
そして今回入院してきた姑。
そこに毎日来る私。
姑の下着入れを勝手に開け、なんか隠してないかと戸棚を探し、看護婦さんのいう事聞かないと退院できないよと脅かし、とても嫁のする事とは思えなかったらしいのだ。
そんな親身な事を言うのは娘しかいない、そう思っていたようなのだ。
「ほらね!本当にお嫁さんだったでしょ!」と言った姑に、隣のベットのおばさんは泣きそうな顔で「あんたは本当に幸せ!」といった言葉が今でも忘れられない。
姑は幸せだったのか、それともそうでもなかったのかもう聞く事は出来ない。
今日は60歳で逝った姑の14回目の命日だった。